外科症例紹介
外科診療科には、神経疾患や整形外科疾患、腫瘍性疾患や眼科疾患など様々な疾患の症例が来院します。
その中で、来院件数の多い疾患や特殊な機器を使った治療法や手術について、何例かの症例を紹介いたします。
外科獣医師紹介
- 症例1.「椎間板ヘルニア」
-
椎間板ヘルニアとは椎間板の退行性変化および変性を伴った脊髄の圧迫による疾患椎間板が脊髄を圧迫する事で、脊髄麻痺をもたらす疾患です。
頸部の椎間板ヘルニアでは、頸部痛、前肢麻痺、四肢麻痺などの症状をもたらし、腰部の椎間板ヘルニアでは、後肢麻痺、排尿困難、腰部痛などの症状を示します。
MRI、CT、脊髄造影などを組み合わせて診断し、手術適応症例には手術を実施します。(文責:板本)
- 脊髄造影下CTによる診断
- MRIにより診断された、頚部椎間板ヘルニア
- 手術により露出した脊髄
- 症例2.「脳腫瘍」
-
脳腫瘍は、腫瘍組織による神経組織の破壊/置換、頭蓋内占拠病変による神経組織の圧迫、血管障害、脳室閉塞により様々な神経症状
(精神状態の変化、視覚異常、沈鬱、旋回、運動失調、発作、斜頸、眼振などの症状)を示す疾患です。
当センターではMRIやCTなどを用いた診断に加えて、外科手術/放射線治療を併用した治療をおこなっています。(文責:板本)
- 髄膜腫摘出前および後
- 経前頭洞開頭術
- 希突起膠細胞腫の摘出前および後
- 症例3.「骨折」
-
骨折の治療は、金属製のプレートやネジなどで、骨折した骨が癒合するまで固定します。
当センターでは従来のDCP(Dynamic Compression Plate)に加えてLCP(Locking Compression Plate)システムを導入して治療しています。
LCPは従来法に比べて、角度安定性を有し固定強度が強い、骨膜血流を温存できるといった特性を有する優れた治療システムです。
また骨の端に近い部分での骨折や広範に粉砕して上述したプレートシステムではうまく固定できない場合や骨が化膿しているなどの場合は創外固定法を用います。
創外固定は早期に良好な骨癒合が得られる事や骨伸張がおこなえる事が特徴で、当センターではイリザロフ型およびリニア型創外固定装置を使用しています。(文責:板本)
- プレートを用いた骨折治療(左:治療前、右:治療後)
- イリザロフ型創外固定装置
- リニア型創外固定装置
- 症例4.「前十字靭帯断裂」
-
前十字靭帯断裂は、膝関節にある前十字靭帯の部分的あるいは完全損傷で、急性の跛行(びっこ)を示す疾患です。
小型犬に比べて大型犬での発症が多いとされますが、幅広い犬種で発生し、特に肥満の犬に好発の運動器疾患です。
治療は様々な治療方法が報告されていますが、当センターでは従来法であるLSS (lateral suture stabilization)に加え、
TTA(Tibial Tuberosity Advancement:脛骨粗面前進術)を採用しており、優れた手術成績を得ています。(文責:板本)
- TTAテンションバンドプレートの打ち込み
- TTA術後のレントゲン像
- Isometric pointを用いたLSS
- 症例5.「気管虚脱」
-
気管虚脱は中高齢の小型犬に多く見られ、症状が進行すると呼吸困難を起こし死に至る事もある病気です。
気管虚脱は、軽度であれば安静や内科療法で管理することが可能ですが、呼吸困難を生じるような進行した症例では、外科的な介入が必要となります。
当院では、気管虚脱症例に対して従来の手術法に加え、より低侵襲で治療効果が期待できる「気管内ステント設置術」を積極的に行っています。(文責:原口)
- ステントの設置
- 気管支鏡(ステント挿入前・挿入後)
- 症例6.「胸腔内腫瘍」
-
犬や猫においても胸腔内(肺、心臓、縦隔など)に腫瘍が発生します。
胸腔内は、大血管や神経が多く存在し、手術のアプローチが難しい部位だと言われています。
当院では、高度画像診断装置を用い綿密な術前計画を立て、より安全で低侵襲な手術を心掛けています。(文責:原口)
- CTガイド下生検
- 胸腔内腫瘍
- 症例7.「乳糜胸(ニュウビキョウ)」
-
乳糜胸とはリンパ管から漏出したリンパ液(乳糜液:にゅうびえき)が胸腔内に貯留した状態で、
乳糜液の胸腔内貯留に伴う肺拡張障害や線維性胸膜炎から生命の危機をもたらす治療の難しい疾患です。
当センターでは、複数の術式を併用する事で治療成績を向上させています。(文責:板本)
- 胸腔内から抜去されたリンパ液
- 胸管結紮前および後
- 心膜切除術
- 症例8.「門脈体循環シャント」
-
門脈体循環シャントとは先天的、後天的に生ずる異常な血管(シャント血管)を形成する疾患です。
本来、肝臓へ血液を供給する血管(門脈)を通る血液が、異常なシャント血管を通過する事で、
肝臓を迂回し、嘔吐、食欲不振、流涎、痙攣、元気消失、歩行時ふらつき、下痢などの諸症状を示します。
各種診断機器(CT、Cアーム)を用いて、異常血管(シャント血管)を特定し、アメロイドリング、セロファンバンディングといった手法で治療を行っています。(文責:板本)
- シャント血管の3D画像
- デジタルサブトラクションアンギオグラフィー(DSA)を用いたシャント血管の同定
- シャント血管に設置したアメロイドコンストリクター
- 症例9.「内視鏡下手術」
-
近年、獣医療においても低侵襲手術が注目されています。
内視鏡下手術は、従来の手術法と比較して、傷が小さいため疼痛も少なく、術後の早期回復が可能となります。
すべての手術が、内視鏡下手術の適応となるわけではありませんが、当院では雌犬の避妊手術や肝臓の組織採取など一部の手術は、内視鏡(腹腔鏡)を用いて行っており、患者に対する手術ストレスの軽減に努めています。(文責:原口)
- 雌犬の内視鏡下避妊手術1
- 雌犬の内視鏡下避妊手術2
- 症例10.「放射線治療」
-
腫瘍の治療は、手術・放射線治療・化学療法(抗癌剤)が柱となり、それぞれの治療法を単独もしくは併用して行います。
放射線治療は、主に手術が困難な部位の腫瘍や術後の補助的な治療法として実施されています。
放射線治療機を所有している施設は、まだまだ少ないですが、当院では数多くの症例に対して放射線治療を実施しており、優れた治療成績を得ています。(文責:原口)
- 舌扁平上皮癌(治療前後)
- 脳腫瘍
- 放射線治療機